湯どうふ

『お客様は神様です』を考える

今や「お客様は神様です」の言葉は日本社会の隅々まで浸透している。良くも悪くも。

「お客様は神様です」は三波春夫の言葉として広く知られている。この言葉は仕事の文脈、特にサービス業の中で使われることが多い。お客様には神様と思って接しなさいということである。場合によっては、拝金主義の象徴のように読み取られる。

しかし、今日のこのような解釈は三波が意図するところとは異なるだろう。三波は歌手、歌という芸で生きた人である。

今日では、芸は大衆のためのものである。大衆は楽しみのために芸を求めて、その対価としてお金を払ったり払わなかったりする。

そのちょっと昔、一部の芸は支配階級のためだった時代がある。ヨーロッパでは宮廷絵画、宮廷音楽が発展した。日本でも、日本画が発展した。

宗教に関連した芸もある。神楽などは神に向けてのものである。踊りや音楽、山車、御輿などを伴う祭りも、現代は見物人が大勢いるので大衆に向けてのものだと思われるが、本来は神に対するものである。

田舎では地域地域に無数ともいえるほどの祭りがある。全く有名ではないので、観光客が来ることもない、地縁・血縁の集まりの中でひらかれる祭りである。これだけ小規模な祭りだと、祭りは大衆化しない。そのため、本来の祭りの趣旨通り、祭りの間、参加者が向き合うのは神そのものである。

このような田舎の祭りに参加したことのあるものなら、多くが認識していることと思うが、芸とは本来、神に対するものである。芸に生きた三波がこのような考え方を持っていただろうと想像することは難しくない。

三波は神に向かって芸をしていたのならば、芸をする三波の目の前にいるのは聴衆、すなわちお客様である。