湯どうふ

獅子文六『てんやわんや』

 

てんやわんや (ちくま文庫)

てんやわんや (ちくま文庫)

 

  最近、書店で獅子文六が推されています。今年に入ってからも、『箱根山』とかが読めるようになりました。読んでみると、数々の書評の通り、現代的な文章だと思いました。むかしの小説は、単語もよくわからないし、時代背景とかもよくわからないのに加え、現代においてはやりの文体とも違うこともあって、私にはスッと入ってこないことが多いです。でも、獅子文六の作品は、誰かが話しているのを聞いているような感じがして、読みやすいというのが総じての感想です。

  時代設定は戦後直後です。主人公は代議士に仕えている書生のような身分です。戦争に負けた日本では、これまでの価値観が根本的にひっくり返ります。主人公も同様でした。戦争までの主人公の生き方というのは、ご主人様である代議士に仕えるという封建的なものでした。しかし、敗戦後の主人公の周辺では、数か月前までは命を懸けて訓練していた元予科練が生きるために盗みをはたらいたり、欲望が噴き出るように渦巻く東京を目の当たりにするなど、劇的に転換する世間に身をさらした主人公は、ご主人様と決別し、郷里の北海道へ帰ることを誓います。

 ご主人様の下を去る意思を告げるため、恐る恐る代議士に面会した主人公ですが、思いがけず四国へ身を隠さなければならなくなりました。その後の物語では、四国における1年にわたる主人公の奇妙な生活を描きます。

 

全体を読んで気になったこと、面白いと思ったことをいくつか挙げたいと思います。

1.「農業会」

主人公は四国のある田舎町の豪農家の客として、1年を過ごします。滞在中に、豪農の主人とその友人たちと交流します。その交流した仲間の一人が、戦争前に「農業会」で働いていたという描写があります。当然、この小説は学術書ではないため、「農業会」ってなんなんだという疑問はスルーされます。

農業会というのは、現在の農業協同組合(農協)の前身であるようです。高校で日本史を選択された方の中には、「農会」を思い出す方もいるかもしれません。しかし、「農会」と「農業会」は違う組織であるようです。

農業会は昭和18年の農業団体法(農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律:第1条により昭和22年廃止)に基づくようです。

市町村農業会、都道府県農業会、中央農業会が存在しました。また、養蚕業については、生糸輸出業組合、養蚕実行組合が別に存在しました。上記の団体は農業団体法の廃止と同時に廃止されています。団体が解散されたのちに、農業協同組合農業協同組合連合会が成立するようです。組織的には異なるものの、施設等の財産を承継していることから、事実上の後継団体といえそうです。

そのほか、気になる点は以下の通りです。

・中央農業会の成立と同時に帝国農会、産業組合中央会、全国用産業組合連合会は解散し、権利義務関係は承継されました。(農業団体法第78条)

・また、農業団体が成立すると同時に、産業組合中央金庫が農林中央金庫に改まっています。(農業団体法第109条)ほかには、全国農業経済会が成立します。(農業団体法第1条など)

では、帝国農会、産業組合とかって、何なのでしょうか?